座禅は複雑系の自己組織化プロセス | 瞑想 | 田村洋一

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座禅は複雑系の自己組織化プロセス

今週は音楽療法世界大会に藤田一照さん・森平直子さんの通訳として参加しました。セミナーのトピックは「マインドフルネスに基づいた音楽療法と禅の瞑想」です。

 

藤田一照さんのお話の眼目は「調」ということ一点です。見事にその一点に集約して禅を解説されていました。一照さんによると「調」は仏教の核心にある概念だと言います。

 

座禅する際に「調身、調息、調心」という心得をよく聞くことがあります。これは身を調え、息を調え、心を調えることだと教わるのです。「私」がbodyを調え、breathを調え、mindを調え、座禅に成功しよう、座禅の目的である悟りに到達しよう、と努力する。

 

これが現代社会において通常の、主流のアプローチです。これをタイプAの「調」と呼んでおきます。命令してコントロールする「調」(regulating)です。

 

ところが、これでは座禅はうまくいかないのです。道元禅師の云うところの習禅、座禅のテクニックに堕してしまいます。

 

そして、これに代わるアプローチは、自然を信頼し、自分を信頼し、自然の自分に委ねることです。これをタイプBの「調」(self-regulating)と呼んでおきます。

 

そこにすでにあるサポートやリソースを頼り、受け取り、委ねることによって自ずと体は調い、息は調い、心が調う。「私」がやるのではなく、体が勝手にやるのです。私が息を調えるのではなく、息が勝手に調う。私が心を調えるのではなく、心が勝手に調う。体や心や息は、調えるべき対象ではなく、自ずと調うことができる生き物なのです。

 

身体も心も物ではなく、生き物です。これは複雑系のモデルであるカネビンフレームワークで言う、organsingとself organisingの違いです。

 

秩序系においては自分が主体として組織化(organise)しなければなりません。部下を手足のように組織化する。これが機械的組織論におけるマネジャーやリーダーの仕事です。マネジャーやリーダーは主体的に自分の意思で人や組織を動かさなくてはならない。従来のいわゆる「リーダーシップ論」の大半がタイプA中心のセオリーです。

 

一方、複合系(複合系)においては自分の主体性をある程度意図的に放棄し、人や組織や出来事が自律的に勝手に動いていくことをリーダーがファシリテートすることが必要となります。これがいわゆる自己組織化、self organisationです。

 

自己組織化というと何かの専門用語のように聞こえるし、実際に専門用語なのですが、平たく言えば「勝手に動く」ことです。人や組織は「物」ではなく「生き物」なのですから、自分の意思で勝手に動くのです。それどころか出来事やプロセスすらも「生命」があるかのように勝手に動きます。

 

これは大きなプロジェクトや複雑な事業に携わった経験のある人なら誰でも感覚的に知っていることです。事業やプロジェクトがあたかも己の意思を持っているかのように「勝手に動いていく」のを観察し、「ああ、そうなのか」と受け入れ、その大きな動きに乗っていくことが求められます。

 

事業やプロジェクトが小規模だったり単純自明だったりする段階においては、「誰か」が主体性をもってコントロールし、動かしていくことが有効です。

 

しかし、事業がある規模を超え、あるレベルの複雑さを超えた時、リーダー個人の主体的なコントロールで支配し続けることは不可能であるばかりか逆効果になりかねません。

 

現代社会においてはタイプAの主体的コントロールが幅を利かすことの多いのです。今回のメイントピックだったRMT、調整的音楽療法(regulative music therapy)は直接的な介入を避け、セラピーのクライアントが自律的に自分自身を調えていくことを狙うものです。

 

音楽という独特のツールを用いて、自分を自然に委ねていくことを学ぶ。それは習禅に陥りやすい従来の座禅や瞑想の弱点を補い、本来の瞑想的な自律運動を促す画期的な方法だったのではないかと思います。

 

ドイツから渡来した知る人ぞ知るセラピー手法と、曹洞宗の僧侶藤田一照さんの明かす禅のエッセンスとが交差した歴史的瞬間でした。

 

サンタフェ通信7月7日より


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