研修の効果をどうやって知るのか | システム思考 | 田村洋一

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研修の効果をどうやって知るのか

今から11年前、あるクライアント企業の人材育成部門から相談を受け、カークパトリックモデルを使って研修効果を定着させることを試みたいので協力してほしいと頼まれたことがあります。

 

ビジネス思考力向上トレーニングは当時すでに数百人に提供しており、非常に高い研修の満足度でした。

 

「たくさん研修を受けているが、これほど衝撃を受けることは滅多にない」
「自分の得意なやり方を見直して新しい考え方が身についた」
「戦略的に動くということをほとんど初めて理解した」

 

などワークショップを実施するたびに受講者から驚きの声が寄せられていました。不満や不平の声は皆無です。

 

クライアントの要望は、研修を「満足」で終わらせずに学習結果を業績向上に結びつけたい、という極めて真っ当なものでした。カークパトリックモデルは教育の分野では知らない人はいない非常に古いモデルです。しかし現実に活用されているのを見ることは少なく、興味深い試みだと思いました。

 

教育機会を提供した後、教育効果をどう測るか。研修に満足したかどうかは一時的な効果測定にすぎない。だいたい満足とは何なのか。不満足より満足のほうがいいのか。そんなことより内容をきちんと理解したのか、学習したのかのほうが大切だ。そして理解したことや学習したことを実践しているのかがもっと重要だ。学習者の行動に反映されているのか。行動が成果を生んでいるのか。組織の業績に貢献しているのか。

 

私と同じ3月9日生まれのカルロス・ゴーン氏は、日本の自動車会社のトップに就任して大改革を断行したことで有名ですが、その際に教育研修の効果がきちんと業績に反映されているのかを知りたがったことも知られています。教育研修は投資対効果を上げているのか、ただの満足で終わっていないのか、と。経営者の観点から考えたら合理的でもっともな懸念です。

 

しかし事はさほど単純ではありません。

 

教育研修で教えていることは机上の知識ではありません。私が教育者としてトレーニングしていることは机上の知識などではなく、もっと動的で、言語化しきれない身体知の訓練です。

 

どういうことか説明してみましょう。

 

先週末はSTARクラブセミナーでブレイクスルー思考のトレーニングをしました。ブレイクスルー思考は、従来型の分析や問題解決のアプローチに慣れ親しんだ人からすると許しがたい蛮行とも言えるものです。世界中で主流のデカルト思考(分析的問題解決思考)を全否定するところからスタートするのです。しかし極めて効果の高い現実的アプローチで、デカルト以来の科学的パラダイムを覆す、目的論の現代的再生であるとも言えます。

 

ナドラー・日比野両教授が体系化したブレイクスルー思考の哲学とメソッドは出版されたオープンナレッジです。STARクラブセミナーに来なくてもその情報や「知識」をダウンロードすることは誰にでも可能です。

 

ではSTARクラブセミナーでは何を「教育」しているのでしょうか。

 

それは自分自身に内在するデカルト思考やブレイクスルー思考の種を見出し、それを育て、現実の夢の実現や課題の解決に応用できるための学習体験です。

 

心に響いたものしか定着しないし、身体で感じたことしか活用できないのです。

 

ブレイクスルー思考ワークショップの後で「学習効果を測定」するためにテストをしたり、「行動変容を測定」するためにアンケートをしたり、「業績効果を測定」するために実地調査をしたりすることは不可能ではありません。が、ほとんど不毛です。身体知を測定しようとして数値化したり言語化したりしても数値化や言語化が可能なのは全体のごく一部なのです。

 

学んだことを心と身体に灼きつけること、あとは学んだ人がそれを思い出して実際に応用すること。これに尽きます。

 

人材教育の提供者が、自分の提供した教育の効果が浸透するようにと研修の転移を図るなどということは、その善意と努力に反して効果が上がらない徒労に終わります。その理由の最たるものは、本当の「学習」は言語化・理論化された「教育」などとは隔絶した複合系において生起しているものだということです。

 

「今日学んだことで行動が変わりましたか」「成果が上がりましたか」などということを「評価」しようとするのは無意味に近い。自分で評価しようが他者が評価しようが同じことで、測定できると考えるのがデカルト思考に染まった学者や研究者が陥りやすい分析の罠の一種です。

 

カークパトリックが間違っているのではありません。デカルト思考からして間違っているのです。全体をバラバラに分解して「理解」したつもりになっている時点で間違っているのです。理解は常にシステム全体から入らなければなりません。

 

企業におけるビジネス思考向上トレーニングはその後も続き、受講者は数百人から数千人になり、そこで出会った人たちからコンサルティングやコーチングの依頼もあり、先日も新たな企業から依頼があり、今日の午後に第一回のビジネス思考力向上ワークショップに行きます。

 

ビジネス思考を学んだ人たちが何を学び、何を実践し、どんな業績を上げたのかはどうやってわかるのでしょうか。それは定型的な測定データではなく、極めて人間的なフィードバックで伝わってきます。久しぶりに出会った受講者や依頼主の成長や成功の姿から伝わってくるのです。

 

サンタフェ通信8月4日より


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