倫理的利己主義とクライアント奉仕 | 田村洋一

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倫理的利己主義とクライアント奉仕

倫理的利己主義(ethical egoism)というのは、畢竟「人は皆、自分自身のために生きるべきだ」「自分自身のために生きることこそが唯一の倫理的な生き方だ」という哲学です。

 

これだけ聞くと過激にすぎて受け入れがたい人がほとんどだろうと思います。でも、私は原理的に利己主義者で、常に利己的に暮らしています。自分の人生を自分自身のために謳歌しています。

 

一方で、私はクライアントに奉仕する職業に就き、また仕事以外でも友人知人家族親戚に対してときには献身的に接しています(いつもではありませんが、わりと多く)。これはどういうことなのか。利己主義とは自分を利することであって、他者を利するのではないだろうに、矛盾しているのではないか、と思う人もいると思います。

 

それでこの潜在的な矛盾を少し解き明かしましょう。

 

例えば、私が仕事を引き受ける上で最も重視するのは信頼です。クライアントが期待を寄せて依頼してきてくれたなら、その信頼に応えることが私の最低限の仕事です。期待に応えるのではなく、信頼に応えるのです。

 

クライアントが「これをしてほしい」と期待を寄せてきたとき、ただそれをやり遂げるのではなく、本当にクライアントの利害にかなうことは何か、と考えます。

 

もし期待に応えることがクライアントの利害にかなわないと思われる理由があるときは、なんらかの方法でクライアントにそれを伝え、何が本当に利害なのかを明らかにしようとします。

 

これらのことは、一見すると「自分を利する」利己的行為には見えないかもしれません。クライアントを利する行為なのですから。

 

しかしビジネスは信頼によって成り立っています。コンサルタントが本当にクライアントの利害を尊重しなければ、最終的には信頼を損なう事になりかねません。それは目先の利益や当座の期待よりもずっと重要なことです。

 

仕事以外の人間関係においてもそうです。

 

私はできるかぎり約束を守ろうとし、できるかぎり約束を破らないようにします。それは相手の利害を尊重する行為です。しかし同時に人間関係を大切にし、自分への信頼を損ねない行為でもあります。

 

もし私が自分勝手に約束を破り、相手に迷惑をかけ続ければ、早晩悪い評判となり、私は行動の自由を少しずつ失い始めるでしょう。

 

私が利己的に働き、利己的に暮らしているというのは事実です。でもそれは他人をないがしろにしたり傷つけたりすることではありません。むしろ逆です。クライアントや友人や家族を大切にすることは、私自身の価値観に合致しているのはもちろん、大いに自分を利する行為でもあるのです。

 

倫理的利己主義は、他者への奉仕を否定しないばかりか、大いに促進さえしてくれるのです。

 

サンタフェ通信4月27日より

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