「出来るフリをしていろ」という妄言 | 田村洋一

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「出来るフリをしていろ」という妄言

Fake it till you make it という言葉があります。できるようになるまではできるようなふりをしていろ、とでもいうような意味です。新米の営業マンがお客の前に出ていかにも新米の営業マンですという態度でいるよりも、最初からまるで百戦錬磨の営業マンのような顔をして振舞っていればそのうちに百戦錬磨の営業マンになる、というようなことです。

 

管理職になったら、マネジメントの経験や知識がなくても管理職っぽくふるまっていればいい、経験や知識はそうやっているうちについてくるから、などと助言する人もいます。

 

これは一理あるように聞こえるかもしれませんが、明らかな間違いです。リアリティは決してfakeできないものです。説明しましょう。

 

経験のない外科医がfake it till you make itと言ってベテランの外科医のふりをしていたら患者はその外科医に執刀してもらいたいと思うでしょうか。患者がそれを知らなかったとしたら、そういうフリが許されるのでしょうか。

 

登山の経験のない人がfake it till you make itと言ってスキルも知識もないのにいきなりエベレスト無酸素単独登頂に挑んでもいいのでしょうか。

 

音痴の人がいきなり歌手になったつもりでコンサートを開き、調子っぱずれの歌をお客に聞かせてfake it till you make itと言って胸を張っていていいのでしょうか。

 

何の勉強も訓練もしたことのない人が画家になったつもりで街頭に立って「1枚5千円です」と言って似顔絵を描いて売れるのでしょうか。

 

現実を相手にしている人ならそれがいかに愚かで有害で迷惑なことかすぐにわかります。

 

現実を相手にしていない人たちはfake it until you make itと言って現実をごまかせると思い込むことがあるのです。社長になったつもりでフリをしていればそのうち社長になれる、とか、大金持ちになったつもりでそのフリをしていればそのうち大金持ちになれる、などという妄言はその類です。

 

本物の社長だったらどう考え、どう振る舞うか、と想定して、経営者がやるべきことをやる。これはfakeとは違います。リアルな想像のもとにリアルな思考をし、リアルな決断をし、リアルな行動をとるのです。

 

リアリティはfakeできない。自分が何を創り出したいかを考え、まだそれが作り出されていない現実を客観的に観察すること。これが常にスタートです。

 

サンタフェ通信9月14日より

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