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構造力学とシステム思考はいとこ同士

私の友人で同僚のピーター・センゲは、ベストセラーとなった著書 The Fifth Discipline(邦訳「学習する組織」)の中で、システム思考を組織学習の要と位置づけている。

 

システム思考と構造力学は極めて相性のいい規律だ。多くの原則を共有し、似通った傾向を持っている。両者とも断片ではなく全体を見ることを促し、因果関係の本質的な網を理解することを可能にする。両者とも狭い視野から人を解放し、広い時空における事象の相互関係を見ることを助ける。両者とも組織学習を促して人が直面する複雑な課題を協働で探究することを助ける。システム思考と構造力学の優れた共通点はまだまだたくさんある。

 

しかし両者には重要な違いもある。専門的な違いもあれば、思想的な違いもある。システム思考は構造力学ではないし、構造力学はシステム思考ではないということを知っておくことが大切だ。それぞれをよりよく理解して活用できるためには、両者が同じことを別の角度から言っているだけだという誤解に基づいて一緒くたにすることをやめたほうがいい。

 

システム思考のほうが複雑さを理解する上で優れている場合もある。例えば、因果ループ図、コンピュータモデリング、アーキタイプ診断などを使うときである。構造力学のほうが優れている場合もある。因果パターンや組織の業績傾向を理解して記述するときなどだ。ビジネス戦略と経営の実践のために組織を設計するツールとしては、構造力学のほうが優れている。二つの異なる規律があるのだから、私たちは違いを理解して最善の使い方をすることができる。

 

両者の専門的な違いの一つは、それぞれのアプローチにおける中心的な機構(メカニズム)である。構造力学では(第2章で取り上げた)緊張構造がそれだ。システム思考ではフィードバックループがそれだ。MIT(マサチューセッツ工科大学)のジェイ・フォレスターの研究グループがシステムダイナミクスでそれを示している。

 

複雑系を理解するためにシステムダイナミクスでは2種類のフィードバックループを用いる。ポジティブフィードバックとネガティブフィードバック、または強化ループと均衡ループなどと呼ばれる。強化ループは一方向に動きを強化する。均衡ループは方向性を制限し、均衡を生み出す。

 

強化ループは収穫逓増の法則を生み出す。「増えれば増えるほど増える」という原理である。銀行に預金すれば利息を生み、原資が増え、さらに利息を生む。成長が成長を呼び、衰退が衰退を呼ぶ。

 

均衡ループは、固定目標と変数によって成長に制限をかける。サーモスタットには設定した温度があって、室温が設定温度よりも低くなると暖房が入り、設定温度を超えると暖房が切れる。そうやって室温の均衡を保っている。

 

強化ループと均衡ループからなる複数のフィードバックループが組み合わさって複雑なシステムが形成される。システムダイナミクスはフィードバックループという道具を使って、社会・経済・生態系・組織のシステムの複雑さを分析する。昨今では多くの企業組織がループ図を使って重要課題を分析するようになってきている。

 

システムダイナミクスにおいては、フィードバックループが基本単位だ。言語にとって単語が、数学にとって数字が基本単位であるのと同じである。構造力学においては、緊張解消が基本単位だ。構造コンサルタントは、組織内で支配権を争う複数の緊張解消システムを分析し、組織内のクライアントたちと一緒に新しい緊張解消システムのダイナミックな関係を創り出し、会社の目標に向かう最小抵抗経路が働くようにする。それが組織の真の志と価値を実現するための土台となるのである。

 

(ロバート・フリッツ著 田村洋一訳「偉大な組織の最小抵抗経路」より)

 

p style="text-align: right">サンタフェ通信9月13日より

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