ポジティブ思考の大間違い | 田村洋一 | サンタフェ通信

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ポジティブ思考の大間違い

 

 人生がうまくいってる人たちはたいてい物事に対する態度がポジティブで、プラス思考です(もちろん例外もあります)。何か悪いことがあっても「これはかえって運がいいことかもしれない」と言って災いを幸いに転じてしまいます。

 

 松下幸之助翁は子供の頃に大事故に遭って死にかけたとき、「命が助かったのは強運だ」と感謝したと語っていました。ポジティブな人にかかると事故も幸運に転じてしまうのです。

 

 その昔、ナポレオン・ヒルという人が社会で大成功している人たちを研究して、ポジティブ思考こそが成功の鍵だと明言しました。(ヒルの著書「Think and Grow Rich」は名著で、読み応えがあります。)

 

 さて、ポジティブ思考は本当に成功の鍵なのでしょうか。

 

 ヒルの亜流は現代の日本やアメリカに溢れかえっています。ポジティブ心理学、ポジティブ組織開発、ポジティブ哲学、引き寄せの法則、ザ・シークレット…。

 

 そして、うまくいってない人たちを何とかしようと前向きな態度とプラス思考を薦めます。「前向きな姿勢」こそ成功の条件だというわけです。

 

 その試みはたいてい失敗します。

 

 「ポジティブな態度とプラス思考が、うまくいってる人生の原因だ」という大きな勘違いです。原因と結果の混同です。

 

 ナポレオン・ヒルもそうですが、いわゆる「成功の研究」は成功事例を調べるばかりで失敗事例を十分に見ていません。ポジティブな態度とプラス思考がどれだけ失敗を招いたかの研究はありません。

 

 物事に前向きであるのは良いことです。しかし前向きであることばかりを強調しすぎて、負の面から目をそむけることはプラスになりません。

 

 また、ヒルが研究したような「社会的に成功した人物」にはある種のパーソナリティが共通に見受けられ、それは万人に共通するものではありません。

 

 ポジティブ思考の原則を盾にして物事に慎重な人や消極的な人が批判されることがあります。「もっと前向きに生きろ。前向きになれば解決する」と言うのです。

 

 ポジティブ思考を盾にしてくよくよすることや後悔することが批判されることがあります。「くよくよしても解決しない。後悔はやめて前向きになれ」というわけです。

 

 実のところ、後悔やぐずぐずや用心深さにはそれぞれ意味があります。くよくよしすぎていては生きていけないのは確かです。しかし、長い人生の中では考えてもいかんともし難い悔恨に悩まされることだってあり、そのことにも意味があるのです。

 

 ポジティブ思考はイデオロギー化して、人生の真の豊かさを奪いかねないものにまで異常成長しています。

 

 ときには後ろ向きに、ときには足踏みして、ときには回り道したり道草を喰ったりして歩みたいものです。

 

 ゆっくり行きましょう。一生あるのですから。

 

 

サンタフェ通信5月30日号より一部抜粋しています。


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