ソーシャルビジネスを理解できない人たち | ビジネス | 田村洋一

このエントリーをはてなブックマークに追加

ソーシャルビジネスを理解できない人たち

 

 何年か前に六本木のハリウッドビューティプラザでユヌス先生にお会いしました。ユヌス先生はソーシャルビジネスの分野で前人未到の活躍をされてきたノーベル平和賞受賞者ですが、偉ぶるところの全くない気さくで朗らかな人物です。

 

 その晩、パネルディスカッションのようなイベントの席でユヌス先生に並んで座った居酒屋チェーンの社長が「私はユヌス先生を大変尊敬していて御著書も拝読している」と断った上で「全てのビジネスはソーシャルビジネスだ」と放言するのを聞きました。

 

 私は耳を疑いました。

 

 全てのビジネスは、それが真っ当な商売なら誰かの問題を解決したり何かの役に立ったりするわけなので、社会事業と銘打たなくても社会的な事業である。そう思い込む事業家は山ほどいるし、別段それが間違いでもありません。

 

 しかし、ユヌス先生の著書を一冊でも読めば、ユヌス先生の言うソーシャルビジネスが、従来のビジネスとは一線を画する別物であることは一目瞭然です。

 

 この居酒屋の社長の厚顔無恥と不誠実に呆れ返りました。

 

 ユヌス先生の著書を一冊たりも読んでないだろう、お主。もし一冊でも読んでいたら己の無知をさらけ出す、そんな愚かなことを言うまい。嘘までついて自己宣伝するのかい。

 

 その時はそう思ったのです。

 

 しかしながら、いま思い返してみると、ひょっとしたら、居酒屋の社長はユヌス先生の著書を読んでも理解することができなかった、ということなのかもしれません。

 

 ソーシャルビジネスの考え方は中学生でも理解できるほどシンプルで、わかりやすいものです。社会問題を解決する方法として慈善事業ではなくビジネスを使う。慈善事業は善意の寄付に依存していて、篤志家の寄付が途絶えたら、活動も途絶えてしまう。従来のビジネスは、利益を上げることに明け暮れ、余力でCSRに目を向けるのがやっとだ。

 

 ソーシャルビジネスは、ビジネスのパワーを活用しながら利益を目的とせず、社会問題の解決を目的とする。収益はあくまでもビジネスを持続可能なシステムにする目的で、再投資する。株主配当はせずに、社会問題解決ビジネスに再投資し続ける。

 

 たったこれだけのことが、本を読んで理解できないはずはない。ですから私は居酒屋の社長を「読んでもいない本を読んだと偽って出鱈目を抜かす下衆野郎め」と唾棄したのです。

 

 しかし、実はそうじゃないのかもしれないのです。

 

 ソーシャルビジネスは従来の考え方からかけ離れていて、それがゆえに、どっぷりと従来パラダイムの中に浸かっている社会経済の主流派の人たちにとっては「何だかピンとこない」異質な代物なのかもしれません。

 

 数年経って振り返ってみて、そんなふうに思いました。

 

 皆さんはどう思いますか。

 

 

サンタフェ通信9月5日号より一部抜粋しています。


ホーム RSS購読 サイトマップ