生と死について考える | 田村洋一 | サンタフェ通信

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生と死について考える

 

最近は寝ても覚めても生と死について考えています。

 

ちょっとしたきっかけで三十年前の学生時代に傾倒していた倫理学者ピーター・シンガーの著書を読んでいます。シンガーの文章は緻密で論理的で、大胆で挑発的です。私たちが生と死について常識だと思い込んでいる思考の前提を次々と覆してきます。

 

私たちは人を殺してはいけないと思っています。それは日常においては常識であって、疑う余地もない良識だと思っています。しかし、なぜ人を殺してはいけないのでしょうか。動物なら殺してもいいのでしょうか。もしも殺してはいけないのなら、動物はなぜ殺してはいけないのでしょうか。

 

シンガーは、読み手の心情に訴えるレトリックではなく、あくまでも論理と事実とに基づいて問いかけ、挑みかけ、そしてラディカルな自身の回答を明快に提示してきます。

 

安楽死や脳死などについて三十年前に調べたり考えたりしていた頃は、あくまでもアカデミックな探求を行う中でそれを行っていました。

 

三十年という月日が経ち、改めてピーター・シンガーの文章に触れると、シンガーの思考によって自分の思考が否応なく鍛えられてきたことを痛感します。

 

優れた哲学的な文章は、ただわかりやすいだけで終わることがありません。読む者に問いを与えて、考えさせ、ときに悩ませ、心を揺さぶるのです。

 

三十年前にはなかった現実の変化についてもシンガーの著書は詳しく教えてくれます。死と生にまつわる倫理の旧い枠組みが崩壊しつつあること、世界の法的な枠組みが幾つかの枢要な判決や法制化によって変革されてきていること、脳死のような一見あらかた落ち着いて見える領域においても倫理的なゆらぎが起こっていることなど。

 

毎朝毎晩ピーター・シンガーの文章と格闘し、対話し、議論し、瞑想し、人類に普遍的なテーマについて考えることが最近の愉しみです。

 

そして次の愉しみは、このテーマについてディベートが行われていることです。

 

日本は積極的安楽死を合法化すべきか否か。

 

明日の午後はこのテーマのディベートの試合をジャッジする予定です。

 

サンタフェ通信10月17日号より一部抜粋しています。


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