Writings | 田村洋一 | サンタフェ通信

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駅前の寿司屋 3

 

 昼間に珍しく大学生の長男と家にいたので、昼飯に駅前の松葉寿司に連れ出した。

 

 午後1時半。客はまばら。奥のカウンターにいつもの大将がひとり。「何にしやすか?」と訊かれ、握りをふたつ、と注文する。

 

 マグロ、白身魚、玉子、穴子。今日もうまい。ワカメの味噌汁もうまい。ひと通り全部出終わってから「これも食いな」と、イカを出される。もちろんイカもうまい。「いつも時間っぱずれに来てくれっから」とこっちの顔を見る。今日は過去2回のようにスーツ姿じゃなかったが、大将には当たり前のように顔認識されていた。

 

 カウンターの隣の席に座っていた長男(21)を指差して、息子です、と紹介すると、大将はびっくりした顔をして、「息子さん? へぇ! あんた若いのに!」と大仰に驚くそれを聞いて長男も声を立てて笑っている。弟だよって言ったらよかったな、と笑っていたら、「いやぁ、本当だよ。兄弟かと思ったよ」と言われる。

 

 「息子さん、何かやってるだろ?」と聞かれた長男は、「いや、別に何も」と言っているから、横から、ロックバンドです、と言うと、「やっぱり! そうだと思ったよ。格好でわかるよ!」となんだか嬉しそうにしている。

 

 「よかったな、今日はお父さんのおかげで寿司が食えて。ふだん食えねえだろ、回ってるのは別として、ちゃんとした寿司を」と言うから長男も「ええ、はい」と調子を合わせている。「いくつ?」「21です」「へえ! 大きいお子さんがいたもんだねえ。若い頃にできたんだろ」としきりに感心している。

 

 「おとうさんしょっちゅう来てるぞ」と(過去に2度しか来店していないのに)頻繁に来ていることになっている。

 

 「じゃあリンゴでも食いな」とリンゴを剥いてくれたかと思うと、マックピエールを見て、「お腹いっぱいになった?イカのワタでも食うか?」とさらにおまけで出してくれる。「息子さん連れてこられちゃあしょうがねえや」と言ってにやにやしている。気前がいい。

 

 「これからの時代は大変だ。いろんなことがある」と言う。「俺たちの時代はいい時代だった。バブルもあったしね。戦争終わってからいい時代だった」と言うから大将の歳を訊くと、昭和17年生まれ、72歳だと言う。

 

 おまけの握り寿司を頬張りながらしばらく歓談して店を出た。食べ盛りで大食漢の長男もさすがに満腹になっていた。

 

サンタフェ通信12月12日号より一部抜粋しています。


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