「無知にアクセスする」愉しみについて | 田村洋一 | サンタフェ通信

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「無知にアクセスする」愉しみについて

 

 昨年後半からエグゼクティブコーチングの依頼が相次いでいて、非常にたくさんの企業の経営者や社員の皆さんの話を聞いています。

 

 複雑な経営環境で高度な意思決定に携わる経営者の皆さんは、高い能力を求められるばかりでなく、人間的な強さが求められます。

 

 ときに厳しい判断を迫られ、同時に人や組織への細やかな配慮が求められることも珍しくありません。

 

 先日クライアント企業組織のプロジェクトでインタビューを重ねていたとき、「どうやって短い時間でそこまで深い話を聞き出してるのですか?」と尋ねられました。「普段はなかなかこんなコアな話はできないのに、いま数十分でいったいどうやってるんですか」と訊かれたのです。

 

 私が答えたのは次の2点です。

 

 まず、会話の目的を明確に意図すること。私の仕事では、ときにはかなりきわどいことや個人的な話まで聞きます。その際には完全な守秘義務を履行することは無論ですが、「何のために聞くのか」を明確にします。エグゼクティブコーチングの場合なら、経営者のマネジメントが向上し、活力のある組織を作ることです。

 

 プロフェッショナルとして自分に与えられた目的に忠実に従うこと。そのために全ての会話があります。余計なことは聞かず、必要なことはいくらでも聞きます。

 

 次に、自分をまっさらにして謙虚に聞くこと。同じ業界や同じ会社のことを聞き続けていると、「もう知っている」という錯覚に囚われることがあります。自分の知識を過信するのです。「もう知っている」と思うと、それ以上深く聞くことができません。知っているという錯覚を打ち払い、自分の過信を戒め、初心で聞くことです。

 

 エドガー・シャインの言う「無知にアクセスする」ということです。自分が何を知らないか、どれだけ知らないかを意識して、無知を照らすように質問して傾聴するのです。

 

 その結果として聞かせてもらう話は、私にとっては望外の喜びです。

 

 対話によって触れる真実を人と組織のために最大限活かすこと。立場上知り得た秘密を完全に守ること。プロとしての務めを果たすことによって得られる「役得」は、多くの優れた企業人の人生に触れ、その一端に貢献することです。

 

サンタフェ通信2月6日号より一部抜粋しています。


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