全力を尽くさない | 田村洋一 | サンタフェ通信

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全力を尽くさない

 

「全力を尽くす」ということに対するロマンチックな憧れを持っている人たちが現代日本にはたくさんいます。

 

かく言う自分もそのひとりです。ときどき「全力でサポートします」とか、「全力で頑張ろう」などと言ったりします。

 

しかし実際的なことを言うと、滅多なことで全力を尽くしたりなどしてはいけないのです。もし全力を尽くして倒れこんでいる間に敵が攻め込んできたらどうするのでしょうか。闘う者は常に余力を残しておかなくてはなりません。

 

スポーツの大会の決勝戦の試合で全力を尽くして、それでその後にしばらく休暇が待っているのなら、そういうときは全力を尽くしてもいいのでしょう。しかし、登山で山頂に着くまでに全力を尽くしたりなどしたら下山できなくなります。もし下山までに全力を尽くしてしまうようなら、いざというときに緊急事態に対応できなくなります。いつであっても余力を残しておかなくてはならないのです。

 

プロの仕事も同じです。

 

少しでも複雑なビジネスにおいては、一寸先に何が待ち構えているかわかりません。そういうときに、全力を尽くしてしまうと咄嗟の動きができなくなるリスクを生じます。

 

これが朝の9時から夕方5時までのきっちり決まった秩序的な仕事で、終わったらとっとと休んでいいと言うのなら、その時間帯だけ全力を尽くすのもいいでしょう。しかし現実の仕事では、いつ何時どんな非常事態が勃発するかわからない。そういうときに全力を尽くしてはいけないのです。

 

言ってみれば、余力を蓄えて力の配分をするというプロの仕事を、プロの力量でやりくりするという、そういう塩梅に全力を尽くすべきだと言えばよいのでしょうか。ともかく遊びのない仕事はプロの仕事とは言えない。

 

全力を尽くしてはいけません。

 

(ただし自分の「全力」がどの程度のものかを把握していない人は、ひとまずベストを尽くして限界を知る努力も必要になるでしょう。)

 

サンタフェ通信5月1日号より一部抜粋しています。


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